前回のおさらい

原告が起こした民事裁判のタイミングで、被告は期日に裁判所に出頭しなければならず、出頭しない場合は敗訴になる。
原告が被告に対し民事裁判で争う請求の趣旨を自由に決められるので、最初に裁判の主導権を握ることになる。
原告は民事裁判を起こす準備が整っているので、証拠など揃えやすい。
原告が有利になると言っても、裁判の判決は裁判官が行う。
正義だけでは勝てない。
自分が絶対に正しいと思っていても、証拠に不備があれば認められない場合もある。
優秀な弁護士によって、事実を歪曲することだってあるかもしれない。
何かミスをすれば、逆転敗訴になることも。
つまり、
代理人弁護士のいない素人でも、民事訴訟で勝訴できるのだろうか?
そもそも、裁判の法廷に立つことすら出来るのかも想像できなかった。
弁護士費用(お金)が無くても、訴訟はできる。
民事裁判を自分でする『=本人訴訟 』の心構え!
記事のもくじ
権利の上に眠る者は、保護されない
法諺(ほうげん)のひとつに、「権利の上に眠るものは、保護されない」ということわざがある。
当然の権利を主張しないのならば、国家は助けない。
「訴えなければ裁判なし」(不告不理の原則)
訴えがあった時に初めて裁判をする。
という意味。
法律に関する格言(法格言)やことわざのこと。
日常において社会生活を送る上で必要な法知識を簡単な格言・ことわざ形式にしたもの。Wikipediaより引用
- 後法は前法を廃止する 後法が前法に優先して適用される原則
- 法は些事にこだわらず 小さい事には拘らない
- 国王といえども神と法の下にある 王といえども完全に自由ではない
- 自白は証拠の女王である 自ら犯罪行為を認める自白は有罪認定のために重要な証拠である(現代では批判されている)
- 悪法も法である(Gesetz ist Gesetz.)- 法実証主義
- 目には目を、歯には歯を 人が誰かを傷つけた場合、その罰は同程度のものでなければならない、もしくは相当の代価を受け取ることでこれに代えることもできる
- 法律なければ犯罪なし。法律なければ刑罰なし – 罪刑法定主義(憲法31条)
- 何人といえども、自分の敵手に対して武器を持たせる義務はない(憲法38条)
- 権利の上に眠る者は、保護されない – 時効(民法144条以下)
- 結婚は成人にする – 婚姻による成年擬制(民法753条)
- 訴えがなければ裁判はない – 処分権主義(民事訴訟法246条)
- 法の不知はこれを許さず – 故意 (刑法38条3項) 法律を知らなかったとしても、そのことによって、罪を犯す意思がなかったとすることはできない。
- 疑わしきは罰せず – (刑事訴訟法336条) 犯罪事実がはっきりと証明されないときは、被告人の利益になるように決定すべきであるという原則 (Wikipediaより引用)
1-1. 訴えがなければ裁判はない
⑪処分権主義(民事訴訟法246条)
訴訟はどういう場合に始まり、どのような限度で裁判し、いつまで続けるかを、当事者にまかせる主義をいう。
訴えがなければ裁判は開始しない(不告不理の原則)
裁判所は当事者が申し立てた事項・たとえば貸金の元本だけの返還を求められたのであれば、それのみに拘束され、利息の支払まで認めることはできない(民事訴訟法246条)。
原告が訴えを取り下げたり、請求を放棄したり、被告が原告の請求を認めたり(認諾)、当事者双方が話合いで解決したり(訴訟上の和解)することも自由である(261~267条)。
世界大百科事典 第2版より引用
原告が訴訟で何をどのくらい要求するのか、また裁判の途中で訴えを一部もしくは全部取り下げることなど、当事者の自由で決めることが出来る。
例えば、
原告が慰謝料請求50万円を請求していて、裁判官は100万円が妥当だと思っても、原告が訴えた50万円に対してのみしか判決できない。
つまり、処分権主義とは・・・
裁判所はその申立ての範囲を超えて裁判をすることは出来ない。
1-2. 弁護士費用がない(お金がない)場合は泣き寝入りか!?
民事訴訟を起こすといっても、素人の私にとっては簡単なことではない。
裁判に勝訴するには、民事裁判を正しく進行していく技術が必要になる。
弁護士を立てて裁判をするなら、お金と証拠書類などを揃えてお任せすればよい。
ただし、弁護士に依頼するための弁護士費用は決して安くない。
弁護士費用の相場
弁護士費用は自由化されており、弁護士や個人事務所などで規定がある。
弁護士会の報酬基準の廃止について
2004年4月1日から弁護士会としての報酬基準はなくなり、弁護士報酬は、いわば自由化されました。
・・・もちろん、弁護士報酬が自由化されても、弁護士の使命が「基本的人権の擁護と社会正義の実現」(弁護士法第1条)にある以上、法外な弁護士報酬を請求することができないことは当然です。
弁護士会HP より引用
あくまで目安で見ていく。
着手金・・・依頼時に払うお金。10~40万円ほど
内容証明郵便作成・・・2~3万円
手数料・・・書類作成や事務的な手続きにかかった費用
実費・・・裁判所まの交通費・宿泊費や通信費、印紙代や郵券代
成功報酬金・・・裁判の結果で獲得した金額の〇〇%を支払う
※ 相談する内容によって費用が異なる。(例:相続、交通事故、離婚調停、労働問題、債務整理など)
相談料
その時の経験から想像すると、30分ですべてを話せることはないと思う。
相談して契約の内容を聞くだけで、2時間くらいは必要になってくる。
着手金
最低でも10万円は必要になる。それ以上になる可能性は当然ある。
内容証明郵便
書類作成費用として、数万円の費用は必須。
手数料・実費
裁判が長引けば、手数料や実費がその都度発生するし、弁護士に支払う費用が嵩(かさ)むことは間違いない。
やっと裁判が終わっても、勝訴する確証はない。
民事訴訟では、判決までいかずに和解で終わることが多い。
成功報酬金
獲得した金額の〇〇%は、弁護士の成功報酬として支払うことになる。
敗訴して獲得するお金は無くても、弁護士費用は支払うので最悪大赤字になることも。
1-3. 民事訴訟はビジネス訴訟
刑罰を科すかどうかを決める刑事訴訟と違って、民事訴訟は罪を認めさせる裁判ではない。
敗訴しても犯罪者になるわけではない。
当事者間の権利関係をはっきりさせ、争いをお金で解決するのが民事裁判。
民事訴訟とは
私人間の生活関係(民事)に関する紛争(権利義務に関する争い)につき、私法を適用して解決するための訴訟。
訴訟は、紛争の当事者以外の第三者を関与させ、その判断を仰ぐことで紛争を解決すること、またはそのための手続のことである。 Wikipediaより引用
つまり、民事訴訟はビジネス訴訟とも言われている。
どんなに自分が正しくて権利があっても、結果としてマイナスになる裁判はやる意味がない。
当然の権利を主張しなければ、そもそも裁判は行われず、国家は助けることはしない。
けれども、それによって不利益になる場合は、そもそも大変な裁判をする必要はない。
民事裁判では、お金の支払いを要求することがほとんど。
例えば、感情論でお金は要らないから相手に謝ってもらいたいと謝罪を要求することは出来ない。
そういう法律はない。
例外的には、名誉棄損で名誉回復のための謝罪広告の請求というのがある。
つまり、民事裁判をして不利益になるのは、
相手からお金を取れない上に、弁護士費用で出費が多くなる場合。
数十万円以上もの弁護士費用を費やして、その結果相手からの謝罪すらない。
もし、
『弁護士費用が高くて手が出ないけど、お金のせいで泣き寝入りはしたくない!』と、
もがいているなら・・・
本人訴訟という手がある。
本人訴訟の心構え
本人訴訟は、訴状の準備・手続き、証拠集め、裁判の法廷に立つこと、すべてのことを自分でする。
弁護士に依頼した場合は、この事務作業と出廷までをすべてお任せしてやってもらう。
その費用を浮かせるための本人訴訟なので、自分でするのは当然のことになる。
2-1. 訴訟の実費費用
訴訟費用は、原告が裁判を起こすときに裁判所に納める収入印紙と予納郵券。
- 訴状に添付する収入印紙(申立手数料)
- 訴状等の郵送のために使う郵券(切手) 裁判が早く集結して余った切手は返還される。
国に治める費用は、意外に安い。
①申立手数料(収入印紙)
裁判所に納付する申立手数料
http://www.courts.go.jp/vcms_lf/315004.pdf
例えば、50万円の訴えをする場合は5千円分、100万円の訴えをする場合は1万円分の収入印紙が必要となる。
支払い督促の場合は、その半分の費用でよい。
②郵券(切手)
予納郵便料一覧
http://www.courts.go.jp/yokohama/vcms_lf/H30.4yono-yuken.pdf
最初に6千円分の組み合わせ切手を購入して、裁判所に納める。
裁判が早く終われば残った切手は返還されるし、長引いて足りなくなれば追加で購入して納める。
裁判所から原告・被告宛に郵送される特別送達などの郵便物は、確実に届けられたかを確認できる書留が利用される。
③その他の費用
素人だけで民事訴訟をやるにはハードルが高すぎるという場合、
但し、代理人として裁判の法廷には立つことは出来ない。
高額 弁護士費用 ≫ 司法書士費用 > 本人訴訟
2-2. 本人裁判をするかどうかの判断
トラブルがあった時は感情も高ぶっていて、このまま泣き寝入りするのは許せないと憤慨(ふんがい)しているかもしれない。
でも、素人がいざ自分で裁判するとなると、分からないことだらけで疲労困憊(ひろうこんぱい)して、結局手に負えなくなることだってある。
一度は本人訴訟を覚悟した場合も、冷静になって考え直してみる余裕も必要。
請求金額が少額で、証拠が揃っているようなケース
少額訴訟など
難しい事件や高額な金額を請求する場合は、避けたほうがいい。
被告代理人の弁護士を相手に裁判をしても、知能や技術レベルの差は明らかである。
裁判を行う場所は、被告の住所の管轄裁判所になる。
遠方になると宿泊や交通費などの負担も増えるので、その点も考える。
本人訴訟をするための心構え
民事裁判は、正しく進行していく技術が必要になる。
本人訴訟の場合、負担する費用が抑えられるので、弁護士費用が高額で泣き寝入りする前に、本人訴訟が出来るか検討してみる。
民事裁判は刑罰を決めるわけではないので、本人訴訟をすると決意しても、冷静に方向転換する余裕をもっておく。
裁判所に行ってみる
本人訴訟の手続きとその手順について
弁護士だって初めて裁判をした時があるように、素人でも初めての裁判になる時が必ずあるのだから挑戦する気持ちは大事。
訴訟費用は意外と安いので、弁護士依頼しない覚悟があるのなら、勝訴に拘(こだわ)らずにやってみる。
自分が起こした訴訟で敗訴したからといって犯罪者になるわけではないし、お金を払うこともない。必要以上に恐れることはない。
最後まで意地にならず、冷静に方向転換する余裕を持つこと。